【ダイオウイカなど】深海生物はなぜ大きい?深海巨大症について解説します

皆さんご存知の通り、深海生物の中には非常に大きい生物がたくさんいます。例えば「ダイオウイカ」「ダイオウホウズキイカ」「ダイオウグソクムシ」「タカアシガニ」などです。

どれも深海生物として有名な種類ですが、彼らはどれも近縁の浅海種と比べてかなりサイズが大きいことで知られています。

これは一体なぜなのか、今回は深海巨大症について解説していきたいと思います!

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深海巨大症(Deep-sea gigantism)とは

冒頭でも述べた通り、一部の深海生物は、近縁であり浅い海に住んでいる種類と比べて、かなり大きな体を持っています。

また、浅海から水深 5,000 mの範囲に棲む魚類に対して、水深と体重の関係を調べた研究では、水深 2,500 mあたりを境に、深い場所に生息する種類の方が体重が重くなる傾向が見られています。

この現象は深海巨大症(Deepーsea gigantism)と呼ばれており、多くの科学者がこの謎に立ち向かっています。

生物がある特徴を持つ理由は、その特徴を持ったものが生き残ったから、という一言で片付けることもできてしまいますが、もう少し踏み込んで、この深海巨大症の理由を深掘りしていきましょう。

①高い水圧に耐えるため

最初に紹介する理由は「高い水圧に耐えるため」です。深海の環境を非常に厳しいものにしているものの一つが、その高い水圧です。

海では水深が深くなればなるほど、周囲からかかる水圧が高くなっていきます。カップ麺はミニチュアサイズに萎みますし、空き缶を持っていくとすぐに潰れてしまいます。

飛行機に乗ったり、山に登ったりするとお菓子の袋がパンパンになりますが、これは気圧が低くなっているから。深海では逆に圧力が高くなっていくので、空気が圧縮されていきます。

この圧力に耐えるために体が大きくなったという説があります。ただし、高い水圧に対応した進化は他にもあり、浮袋を持たなくなったもの、体に脂肪を蓄えているもの、硬い殻を持っているものなどもいます。

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②代謝エネルギーを抑えるため

続いて紹介する理由は「代謝によるエネルギーを抑えるため」です。食べ物の少ない深海では、代謝によるエネルギーの減少を抑えることが重要になってきます。

ただ、体が大きいとその分消費するエネルギーが大きくなって不利なんじゃないの?という疑問が湧く人もいると思います。確かに大きい生物の方が消費するエネルギー量は大きくなりますが、実は小さい生物よりもエネルギー消費の効率はアップします。

これは1932年にマックス・クライバーが発表した「生物の呼吸速度(=代謝)は、体重の3/4乗に比例する」という法則に基づいています。分かりやすく説明すると、「体の大きな生物ほど、単位質量・単位時間あたりのエネルギー効率が良い」、つまり、小さいネズミと大きなゾウを比べた時、代謝効率はゾウの方が良い!ということです。

食べ物が非常に少ない深海という環境で生きるために、一部の深海生物は体を大きくすることで生き延びた、というふうに考えられます。

食べ物が少ない環境への適応として、他にはフクロウナギのように口を大きくしたり、テンガンムネエソのように発光気をつけた深海魚もいます。

③体にエネルギーを蓄えるため

続いて紹介するのは「体に熱・エネルギーを蓄えるため」です。水温の低い深海では、体温の維持や一度確保したエネルギーの蓄えは非常に重要な役目を果たします。

1847年、ドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンが発表した法則に「恒温動物において、同じ種でも寒冷な地域に生息するものほど体重が大きく、近縁な種間では大型の種ほど寒冷な地域に生息する」というものがあります。これは体温維持に関わる法則で、大型化した方が寒い地域での体温維持に有利である、ということです。

この具体例としてよくクマが挙げられます。

熱帯に生息するマレーグマは、体長約140 cmとクマの中では最小です。一方、日本を含む温帯に生息するツキノワグマの体長は、130~200 cmでマレーグマよりも少し大きめです。さらに北極に生息するホッキョクグマは、体長200~300 cmで地上最大の肉食動物と言われています。このように、気温が低い地域に生息するクマほど、体長が大きくなる傾向が見られます

ベルクマンの法則は恒温動物に関する内容ですが、深海生物にもこの法則を当てはめると、水温が約 2〜3 ℃と非常に低い場所に生息している深海生物はが大型化しているのは、体温維持に有利だからだと考えられます。

また、体が大きければ大きいほど、食べ物から摂取したエネルギー源を蓄えられる体積も大きくなります。こういった理由で、深海生物は大型化したと考えられています。

④沈降速度が増加し、下降に有利になる

続いて紹介するのは「沈降速度が増加し、下降に有利になる」という理由です。

非常に小さい粒子であるマリンスノーの1日あたりの平均沈降速度は約 68 mほどとかなり遅いですが、そのサイズが大きくなればその分沈降の速度は速くなります。

深海生物の中には、昼間は深海にいて、夜になると食べ物を求めて浅瀬に上がってくるものがいますが、こういった移動の際、徐々に敵が少なくなる深海への沈降速度が速いことは、生存に有利になると考えられます。

⑤外敵に襲われにくくなる

続いての理由は「外敵に襲われにくくなる」というものです。

外敵から身を守る方法として、体を大きく見せる、というのはとても一般的です。よく知られているイワシの他にもアジやサバ・サンマなど、群れで動くことで自らを大きく見せる生存方法がよく取られています。

体が大きくなることで外敵から襲われにくくなり、大型の種類が生存した、ということも考えられる理由の一つです。

⑥産卵に大きなエネルギーが必要なため

続いての理由は「産卵に大きなエネルギーが必要なため、メスが大型化した」というものです。

私たち人間を含む哺乳類においては、オスの方がメスよりも体が大きい、というのが一般的ですが、自然界においてはメスの方が体が大きいことは珍しくありません。

カクレクマノミは群れの中で一番大きい個体がメスに性転換しますし、深海のアンコウ類ではメスの方が何十倍も大きな体をしていることがあります。これは、子孫を残す上でできる限り多くの卵を産むためです。

子孫を残せる大型の個体の遺伝子が選択されていった結果、現在の深海生物大型化に繋がった可能性もあります。

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深海生物巨大症に当てはまらない生物も多い

ここまで、深海生物巨大症とその理由として考えられているものを挙げてきました。しかし、深海生物が全て浅海種と比べて巨大化しているわけではなく、棘皮動物や十脚甲殻類においては、水深の増加に合わせてサイズも大きくなることは認められていません。

なぜ一部の生物種にだけ当てはまるのか、なぜ巨大化しているのか、本当の理由が解明されるのを楽しみに待ちましょう!

もしかしたら、更なる巨大生物が今後見つかっていくかもしれません。

もっと深海について知りたい人へ

もっと深海魚について知りたい方は、本を読むのがオススメです!

深海魚好きの僕がオススメの本をまとめているので、ぜひチェックしてみてください。

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この記事を書いた人

水族館や深海魚・水産に関わることなどが大好きです。
大学院で深海魚に関する研究をしていましたが、2020年に社会人になり
働きながらブログをちょこちょこと書いています。

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